6299777190465681 リウマチ性疾患患者でHBV既往感染のB型肝炎再活性化リスク | 感染症・リウマチ内科のメモ

リウマチ性疾患患者でHBV既往感染のB型肝炎再活性化リスク

感染症・内科一般

前回のつづきです。免疫抑制療法が行われるリウマチ性疾患患者においてB型肝炎も日和見感染症として問題となることがあり国内外のガイドライン等で治療開始前のチェックと、使用中のモニタリングが推奨されています。治療前にHBs抗原のみでなくHBs抗体とHBc抗体も検査して、HBs 抗原陽性ならHBVキャリア、HBs抗原が陰性かつHBc抗体または HBs 抗体陽性なら既往感染とされます。HBs抗原陽性(HBVキャリア)であれば免疫抑制療法を避ける、肝臓治療専門医に相談する、まずHBVへの抗ウイルス治療を検討します。HBV既往感染の場合、免疫抑制療法を行うことはできますが、その際の注意は、各々の薬剤のリスクの違いは? 

B型肝炎で考慮される免疫抑制療法とは

日本リウマチ学会 B型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言 より

副腎皮質ステロイド(中等量以上)(註;既往感染例で PSL0.5mg/kg/日を2週間以上投与で HBV 再活性化が発現したという報告がある)
免疫抑制作用を有する抗リウマチ薬(メトトレキサート,タクロリムス,レフルノミド,ミゾリビンなど),
・全ての抗リウマチ生物学的製剤
免疫抑制薬(アザチオプリン,シクロホスファミド,シクロスポリン,ミコフェノール酸モフェチルなど)
等が現時点では該当する

HBVの評価

上記免疫抑制療法を開始する前に、HBs抗原のみでなく、抗HBs、および抗HBcのスクリーニングを行う その結果に基づいてHBV感染期について分類する  その後の HBV モニタリング、予防または治療を検討する

しかし、リウマチ患者に対するB型肝炎スクリーニングは依然として不十分であるようで、日本の国立データベースの遡及的評価では、RA患者では、基準月中にHBs抗原検査、抗HBs検査、抗HBc検査がそれぞれ患者の28.23%、12.52%、14.63%のみで実施されたことが示された (J Viral Hepat. 2018 Nov;25(11):1312-1320.)

HBs抗原のみでなくHBs抗体とHBc抗体も検査して、HBs 抗原陽性なら 「HBVキャリア」HBs抗原が陰性かつHBc抗体または HBs 抗体陽性なら 「既往感染」

既往感染例への対応は (上記日本リウマチ学会の提言より)
リアルタイム法(TaqMan PCR)により HBV-DNA を定量測定する
・HBV-DNA 量が 2.1 Log copy/mL 以上なら 免疫抑制療法を開始する前にHBVへの抗ウイルス治療を開始
・HBV-DNA 量が 2.1 Log copy/mL 未満なら 免疫抑制療法施行中HBV-DNA 定量と AST,ALT などの肝機能検査を月に1回モニタリングする 免疫抑制治療終了後も少なくとも 12 ヵ月は継続

2018年の米国肝臓病学会AASLDガイドライン(Hepatology. 2018 Apr;67(4):1560-1599.)ではB 型肝炎既往感染のリウマチ性疾患患者では、生物学的療法による再活性化のリスクが大幅に低く、抗HBV予防治療なしでモニタリングされる。頻繁な血清検査、トランスアミナーゼ、HBV DNAおよびHBs抗原を慎重にモニタリングを行う  HBV-DNAモニタリングは1~3か月ごとに行う

HBV再活性化(以下HBVr)とは (米国肝臓病学会AASLD 2018 B型肝炎ガイダンスより)

HBs抗原陽性、抗HBc陽性患者 (HBVキャリア) では以下のいずれか
i) ベースラインレベルと比較して HBV DNA が 2 log (100 倍) 以上増加している、
ii) 以前は検出できなかったレベルの患者における HBV DNA ≧ 3 log (1,000) IU/mL (HBV DNA レベルは変動するため)、または
iii) ベースラインレベルが利用できない場合は、HBV DNA ≥4 log (10,000) IU/mL

HBs抗原陰性、抗HBc陽性患者(既往感染者)では
i) HBV DNA が検出可能 または
ii) HBs 抗原の血清変換が発生した (HBs 抗原の再出現)

肝炎の再燃は、ALT がベースラインレベルの 3倍以上、および100 U/L を超えるまで増加と定義
・de novo B 型肝炎 とは、HBV 再活性化により生じる肝炎のことを指す

HBVrのリスク・薬剤別

B 型肝炎ウイルス感染者の再活性化リスクは、宿主の自然免疫系、B 型肝炎感染の段階、根底にある慢性炎症状態の治療に使用される免疫抑制剤などの複数の要因によって異なる

TNF阻害剤
多くの報告からはHBV既往感染の場合、HBVrリスクは大幅に低い。
HBs抗原陰性/抗HBc陽性でTNFi治療のリウマチ患者でのメタ分析では、HBVr発生率が1.7%であると報告 (Clin Exp Rheumatol. 2013 Jan-Feb;31(1):118-21.)
DMARDまたは生物学的薬剤で治療されているリウマチ性疾患におけるHBVrの有病率に関する最近のメタ分析ではHBVr推定値は1.4%であり、血液疾患や悪性腫瘍における関連推定値よりもはるかに低かった。(Microb Pathog. 2018 Jan;114:436-443.)
種々のTNFα阻害剤のHBVrのメタ解析では(Aliment Pharmacol Ther. 2022 Oct;56(7):1104-1118.)、HBV既往感染者の再活性化はADA5.0、ETN2.6、IFX4.4、UST6.4%。 (慢性キャリアからの再活性はそれぞれ17.1、16.6、40.5、19.1%) HBVr例の24名のうち抗ウイルス剤予防を受けていたのは3名のみ。HBVr例の大多数はDMRDやコルチコステロイドを併用していた

ステロイド
米国消化器病学会AGA のガイダンスでは(Gastroenterology. 2015 Jan;148(1):221-244.e3.)治療期間が 4 週間を超え GC の 1 日用量が PSL20mg/日 を超える量である場合、HBVr に対する少なくとも中等度のリスクがあると考えるとしている
副腎不全に必要な用量での GC の使用(PSL4mg前後)は安全であり、HBVr のリスクを高めることはないと報告されている。(Endocrinol Diabetes Metab. 2019 May 9;2(3):e00071.)

他の抗リウマチ薬
MTX治療のリウマチ性疾患のタイ人集団を遡及的に分析した研究ではHBVr や肝炎の再燃の症例は確認されなかった
レフルノミド(LEF)、スルファサラジン(SSZ)、ヒドロキシクロロキン(HCQ)、アザチオプリン(AZA) などの他の非生物学的薬剤に関してはHBVr の症例は非常にまれであり、これらの薬剤は一般に安全であると考えられる

関節リウマチ患者を対象とした観察研究では、多くの治療法の組み合わせの中で、生物学的DMARDと合成DMARDおよびコルチコステロイドの併用治療がHBVrリスクが最も高いことがわかった(調整ハザード比5.14) (J Infect Dis. 2017 Feb 15;215(4):566-573.)
ドイツのリウマチセンターにて免疫抑制剤治療を受けている抗HBc陽性の既往感染者におけるHBVrのリスク評価では、3種類以上の免疫抑制剤の使用歴、抗HBs力価がより低い患者(<28 mIU/mL)、はリスクを高めることを示した (Clin Rheumatol. 2018 Nov;37(11):2963-2970.)

米国消化器病学会のHBVrリスク分類

高リスク治療(その使用により症例の10%以上でHBVr が発生すると予想される)
・リツキシマブやオファツムマブなどのB細胞除去剤 使用 、HBs抗原陽性/抗HBc陽性: 30%~60%、HBs抗原陰性/抗HBc陽性: >10%
4週間以上のコルチコステロイド療法(中用量/高用量)、 HBs抗原陽性/抗HBc陽性: >10%

中リスク治療 (1%~10%)
TNF-α阻害剤、その他のサイトカイン阻害剤およびインテグリン阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、 HBs抗原陽性/抗HBc陽性: 1%~10%、HBs抗原陰性/抗HBc陽性: 1%
4週間以上のコルチコステロイド療法、 HBs抗原陽性/抗HBc陽性: 1~10% (低用量)、HBs抗原陰性/抗HBc陽性: 1~10% (中用量/高用量)

低リスク治療 (<1%)
従来の免疫抑制剤: アザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、 HBs抗原陽性/抗HBc陽性: <1%、HBs抗原陰性/抗HBc陽性: <<1%
4週間以上のコルチコステロイド療法(低用量)、HBs抗原陰性/抗HBc陽性: <1%

まとめ

HBVr は、適切なスクリーニングおよびモニタリング戦略、および必要に応じて予防的抗ウイルス治療によって容易に予防できるため、特に生物学的治療の時代においてこの合併症に対する認識が最も重要である
HBVrの管理は、患者のHBVの状態 (慢性キャリアか既往感染) に応じた個々のHBVr リスクに基づく必要があるが、使用される免疫抑制治療による HBVr の可能性にも基づく
非生物学的製剤や生物学的製剤(リツキシマブなどB細胞除去剤以外)で治療されるリウマチ性疾患患者には予防的な抗ウイルス療法は必要でない
リウマチ性疾患でもステロイド治療が高用量かつ長期であったり生物学的製剤と抗リウマチ薬とステロイドといったように併用治療となっている場合はHBVrリスクは増す
HBV既往感染でのHBVrの症例は比較的有病率が低い欧米など地理的地域ではまれであるが日本の特に高齢者層では一定数おられるので注意

参考文献
Aliment Pharmacol Ther. 2022 Oct;56(7):1104-1118.
J Clin Med. 2021 Jun 10;10(12):2564.
Ther Adv Musculoskelet Dis. 2020 Mar 16;12:1759720X20912646.

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