6299777190465681 リウマチ性疾患ではニューモシスチス肺炎の一次予防治療をすべきか | 感染症・リウマチ内科のメモ

リウマチ性疾患ではニューモシスチス肺炎の一次予防治療をすべきか

感染症・内科一般

前回の続きで、今回は日和見感染症の一つ、ニューモシスチス肺炎についてです
免疫不全状態の人に起こしうる日和見感染症の一つにニューモシスチス・イロヴェチ肺炎(以下PJP)があります。もともとHIV感染者での日和見感染症として知られたものです。この感染症の症例はリウマチ性疾患患者の間でも報告されています。PJP の臨床症状は、HIV 感染者とそうでない方で異なります。非HIVではPJP は急速に進行し正確な診断が難しく予後不良の重度の呼吸不全を引き起こす可能性があります。
リウマチ性疾患患者におけるこの感染への抗菌薬による予防と有効性に関する証拠は依然として限られています。どのような状態や疾患または使用薬剤において PJP に対する予防抗菌薬が正当化されるのか十分なリスク回避をもたらすかについてはコンセンサスが異なります。

リスク因子

・自己免疫性リウマチ性疾患(AIID) 患者ではPJPのいくつかの危険因子、主にコルチコステロイドの使用とリンパ球減少症が報告されている
・リウマチ性疾患ごとのPJPの疫学をみた研究(Ann Clin Microbiol Antimicrob. 2021 Nov 11;20(1):78.)では、PJP の発生率は、全身性硬化症(SSc)、抗好中球細胞質抗体関連血管炎(AAV)、および 免疫介在性筋炎(IMM) 患者で最も高かった。これらの疾患のうち、PJP の大部分は、プレドニゾロン15 mg/日以上のグルココルチコイドを投与されている間に発生した。PJPを発症した患者ではすべて感染前に予防治療を受けていなかった。

・非HIV関連PJP患者867名を対象としたメタ分析では(Oncotarget. 2017 Aug 4;8(35):59729-59739.)、最も一般的な素因は、血液悪性腫瘍 (29.1%)、AIID (20.1%)、固形臓器または骨髄移植 (14%)、および固形腫瘍 (6%) でした。
・AIIDにおいては、PJPを発症する最も一般的な基礎疾患は多発性血管炎性肉芽腫症(GPA)(8%~12%)で、続いて結節性動脈周囲炎(6.5%)であった。多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)(2.7%)、SLE(2%)、関節リウマチ(RA)(0.1%~0.3%)では少数だった。 (Med Mal Infect. 2014 May;44(5):185-98.)

・巨細胞性動脈炎患者では、コルチコステロイドは高用量のコルチコステロイドの長期使用を必要とするが、PJP の発生率は高めない。同様にSLEやサルコイドーシスでも長期にわたる大量のコルチコステロイド投与がなされるがこれら疾患での PJP の発生率は低いままである。これらからはコルチコステロイド自体がAIIDでの PJPを誘発するには十分な条件でない可能性があることを示す

・他の免疫抑制剤や生物学的製剤は、免疫不全患者の PJP と関連しコルチコステロイドと免疫抑制剤を組み合わせて使用した場合、非 HIV 免疫不全宿主における PJP の全体的な発生率がはるかに高かったと報告されている

関節リウマチ患者におけるニューモシスチス肺炎の研究(Rheumatology (Oxford). 2022 May 5;61(5):1831-1840.)では、より高い年齢、高いBMI、肺疾患の併存、リンパ球数の低下、血清IgGレベルの低下がPCP発症のリスクを高めた

・自己免疫疾患の患者におけるPJP、患者の特徴と転帰の遡及的分析では(Scand J Rheumatol. 2020 Sep;49(5):345-352.)感染時には全員が免疫抑制剤を服用しており、大多数(36/39人)はグルココルチコイドを服用し、過去3カ月間のメチルプレドニゾロンの中央用量は16mgであった。年齢と既存の肺疾患は死亡率と正の相関関係があり、メトトレキサートの使用は負の相関関係があった。

・膠原病患者におけるニューモシスチス肺炎の治療および予後の研究(RMD Open. 2021 Mar;7(1):e001508.)では、高齢(HR 1.06)と付随する間質性肺疾患(ILD)(HR 1.65)は予後不良因子

PCPの予防

長期にわたる(4週間以上)高用量のグルココルチコイド(PSL20mg/日以上)を受けている膠原病患者におけるPJPの予防の研究(Rheumatol Int. 2022 Aug;42(8):1403-1409.)  抗菌薬のTMP-SMX(以下ST)とアトバクオンの間で同様でアトバクオンは忍容性が高く、副作用はなかった、STは26.8%の患者が有害事象を経験した

最も一般的な予防計画は、トリメトプリム/スルファメトキサゾール (TMP/SMX) 480 mg/日または 960 mg を週 3 回投与

・リウマチ性疾患の患者に、ニューモシスチス・ジロベシ肺炎に対するST予防用量の研究(Rheumatol Int. 2021 Aug;41(8):1419-1427.)
ST 400mg/80mg/日を週 3 回処方、またはST 200mg/40mg/日、または用量漸増では、同様の良好なパフォーマンスを示した。逆に、ST400mg/80mg/日では離脱症状と副作用の発生率が高くなった。副作用は特に 400mg/80mg/日のレジメンで開始後 2 か月で観察された。PJPに対するST予防は、主にグルココルチコイド20 mg/日以上服用している患者において有効性を示した。

日本ではST合剤は薬品名 バクタ配合錠 など。 69.20円/1錠。 1錠中スルファメトキサゾール400mg+トリメトプリム80mg含有

・ST合剤の使用はメトトレキサートで治療中の人(TMP と MTX の組み合わせおよび血球減少症のリスクに特に関係する)や 全身性エリテマトーデス(SLE)患者では、有害事象発生率が高いという懸念が表明されている

サラゾスルファピリジンにも予防効果?

・サラゾスルファピリジンまたはスルファサラジンは1950年代に開発された抗リウマチ薬である。サルファ剤に分類され、メサラジンとスルファピリジンがアゾ結合している。 (日本では 薬品名 アザルフィジンEN など)
・動物研究では、スルファサラジンがマクロファージの活性を促進することにより、肺からのニューモシスチスの除去を促進すること
・PJPリスクの減少と関連していたとの報告 調整後IRR <0.01 (J Infect Chemother. 2023 Feb;29(2):193-197.)

まとめ

多発血管炎を伴う肉芽腫症を除いて AIID における PJP の発生率が低いこと、および化学予防薬の無視できない副作用を考慮すると、STなど一次予防薬のルーチン処方については依然として議論がある
最もリスクが高い状態と思われるのは、長期間中等量以上のステロイド治療プラス他の免疫抑制剤シクロフォスファミド等が併用され治療される血管炎とくに多発性血管炎性肉芽腫症
絶対的な末梢リンパ球減少症、高用量のコルチコステロイド、他の免疫抑制剤との併用、および付随する肺疾患(特に間質性肺疾患(ILD))は、PJP の発症の強力な予測因子である
2015年以降に発行されたガイドラインを再検討したところ、PCPの予防は、強力な導入療法を受けているANCA陽性血管炎、特に多発性血管炎性肉芽腫症(GPA)の患者にのみ推奨されている
自己免疫性炎症性リウマチ性疾患を有する成人における慢性および日和見感染症のスクリーニングと予防に関する2022年EULAR推奨事項(Ann Rheum Dis. 2023 Jun;82(6):742-753.)では、 高用量のグルココルチコイドが使用されている AIIRD患者、特に免疫抑制剤と組み合わせて治療されている場合、リスクと利益の比に応じてPJPに対する予防を考慮する、としている

プレドニゾン 20 mg/日以上で 1 か月間以上治療される AIID 患者における PJP の一次予防の提案は、(Chest. 2020 Dec;158(6):2323-2332.)
・GPAおよびILDのあるPM/DMや結合組織病は PJPの高リスクであり一次予防が推奨される
・ステロイド+シクロホスファミドまたはリツキシマブで治療されたANCA関連血管炎(MPA、EGPA)や 腎病変を伴う結合組織病は、中等度リスクと予想され一次予防は検討される
・ステロイド大量長期治療であるGCA および大血管炎は 低リスクであり一次予防は推奨されない

関節リウマチ患者におけるPJPの発生率は、まれでありこのグループの患者にはルーチンの予防は推奨されない (ブログ管理人注;RAでPSL20mg以上長期間使うことはほぼない、高齢とかリンパ球数が少な、間質性肺炎がある、PSLとほかの免疫抑制剤も併用するなど、いくつか要因が重なれば、検討するかどうか)

トリメトプリム-スルファメトキサゾール(ST合剤)は第一選択療法とみなされ、PJPの予防に最も広く使用されているが、その用量は従来からいわれているよりも低量でも良いかもしれない

☞以前のブログ記事「生物学的製剤使用者にルーチンでST合剤を予防投与すべきか」もご参照ください

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