6299777190465681 リウマチ性疾患患者と肺炎球菌ワクチン | 感染症・リウマチ内科のメモ

リウマチ性疾患患者と肺炎球菌ワクチン

感染症・内科一般

関節リウマチ患者など自己免疫性炎症性リウマチ性疾患 (以下AIRD) におきましては、日頃からの感染症予防と免疫抑制治療前のB型肝炎などのチェック、そして各種予防接種による感染症への備えが重要です。 AIRDにけるワクチン接種はその実施に際して過去の接種状況確認や年齢条件、各種助成制度の活用、施行中の免疫抑制治療の影響を加味するなど慎重なスケジューリングが必要です。

肺炎球菌について

肺炎連鎖球菌S. pneumoniaeは、市中肺炎の主な原因で、自己免疫性炎症性リウマチ性疾患 (AIRD) を患う免疫不全患者は、これらの感染症にかかるリスクが高くなる
米国では、高齢患者の間で年間約 400 万件の CAP が発生すると推定されており、これらの症例の 17~41% は肺炎球菌が原因である
AIRD 患者は免疫力が低下しており、感染症のリスクが高くなる
関節リウマチ (RA) 患者の場合、年齢と性別を補正すると、呼吸器感染症による死亡率は一般集団の 2~5倍になる
RA患者の感染症関連入院数は 2.5倍以上になる (Ann Rheum Dis. 2007 Mar;66(3):308-12.)
米国のRAの退役軍人を対象とした研究では、感染による入院の割合が最も高かったのは肺炎によるもの(37%)で、 RA および SLE が、肺炎球菌疾患のさらなるリスク状態として特定された

CAPの年間発生率の比較   (Thorax. 2013 Nov;68(11):1057-65.)
・成人における年間発生率は1000人年(PY)あたりで 1.07~1.20人/1000PY
・HIV 感染患 12人/1,000PY (→最近は治療進歩により 2.5人/1000PYに減少)
・65歳以上の高齢者の場合は、 14人/1000PY
・COPD患者で 22.4人/1000PY
生物学的製剤(TNF-α阻害剤)治療のリウマチ性疾患患者では 
5.97人/1000P

肺炎球菌ワクチンの種類

現在国内では肺炎球菌莢膜多糖体を標的抗原とした, 沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13), 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)2種類のワクチンが用いられている

肺炎球菌の莢膜多糖体は血清型を規定し, 現在までに約100種類の血清型が知られている。上記各ワクチンでは主にそのうちの23種,13種,15種の含有血清型特異的な免疫を誘導する
PCV は、記憶 B 細胞の強力な誘導をもたらす T 細胞依存性の免疫応答により、PPV と比較してより高い免疫原性を発揮することが知られる
PPSV は長期にわたる免疫学的記憶を引き起こすことはできないため追加投与が必要である
これらのワクチンは安全で重篤な有害事象はほとんど報告されていない

日本で販売されているのは、
肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV): PPSV23;
ニューモバックス®NP
肺炎球菌結合型ワクチン(PCV) :  PCV13: プレベナー13® と PCV15; バクニュバンス®

ポリサッカライドワクチン(PPSV)は2014年10月から23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23; ニューモバックス®NP)の65歳以上の成人を対象とした予防接種法に基づく定期接種(B類疾病)が開始

2013年4月に肺炎球菌結合型ワクチンPCV7は小児に対する定期接種となり、同年11月にPCV7からPCV13(PCV13: プレベナー13®)に置き換わった
2014年 6 月にはPCV13が65 歳以上の成人に適応拡大された
2020年5月にPCV13は適応が6歳から64歳にも拡大され「全年齢の肺炎球菌による罹患リスクが高いと考えられる者」に接種が可能となった
沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15; バクニュバンス®)が2022年9月に成人を対象とした販売承認され、MSDは2023年4月10日発売を開始した。
日本ではファイザーが2023年3月30日、小児における使用目的に、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチンを承認申請したと発表した

AIRD 患者における有効性

RA患者の肺炎予防におけるPPSV23の臨床有効性に関する日本のランダム化二重盲検試験では、ワクチンの有効性がプラセボよりも増加することは示されなかった (Arthritis Res Ther. 2017 Jan 25;19(1):15.)
一方、MTX で治療された RA 患者における PPSV23 の長期効果に関する後ろ向き研究では、ワクチン接種を受けていない患者における肺炎発症の相対リスクが 9.7 であることが示されました (Ann Rheum Dis. 2011 Jul;70(7):1289-91.)

PPSV23 の長期免疫原性は、それぞれ MTX 124および生物学的製剤で治療された RA 患者を対象とした 2 つの研究で評価された。どちらも、最長 7 年間の長期にわたる防御抗体の持続期間を示した

7価結合型肺炎球菌ワクチン接種後の抗体反応を調べた研究では、 MTX 治療患者では PCV-7 に対する抗体反応が低下しているのに対し、TNF-α 阻害剤を投与されている患者では反応が損なわれていないことがわかった (Arthritis Rheum. 2011 Dec;63(12):3723-32.)
エタネルセプトを投与されているRA患者におけるPCV-13ワクチンの免疫原性を前向きに評価。PCV-13 によるワクチン接種は効果的に免疫原性があり、安全であった。ワクチン接種時の年齢が高いことは、抗体反応障害の予測因子として特定された。

PCV13-PPSV23の連続接種の利点は、成人ではPCV13接種後に、被接種者に13血清型ワクチン血清型特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種によって両ワクチンに共通な12血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されることである
PCV13 -PPSV23 連続接種による段階的肺炎球菌ワクチン接種は一般集団、および HIV 患者を対象に実施された研究からの結果は、2種ワクチン接種後に免疫原性反応の増強を示した
RA患者を対象としたランダム化対照研究で、16~24週間後のPCV13、続いてPPSV23に対する血清学的反応を評価。この研究では適切な反応が示された(bDMARDSおよびcsDMARDSを受けたRA患者ではそれぞれ87%および94%)  (J Rheumatol. 2017 Dec;44(12):1794-1803.)

2022年1月に米国CDC
65歳以上の全ての成人または19~64歳の慢性疾病のある成人に対してPCV15 -PPSV23の連続接種(1年以上あけて)、(またはPCV20単独)を推奨した

AIRD患者における肺炎球菌ワクチン接種の推奨事項

最適な時期は、AIRD の診断後できるだけ早く、理想的には免疫抑制療法の投与前(少なくとも開始の 2~3週間前)で、状態が安定しており、疾患活動性がないとき

リツキシマブ および MTX が肺炎球菌ワクチンの免疫原性を低下させることは明らか
・JAK 阻害剤およびアバタセプト他の生物学的製剤 (TNF、IL-6、IL-12/23、および IL-17 阻害剤) はワクチンの免疫原性を損なうことはないが、免疫原性を若干低下させるようだ
・低用量のグルココルチコイドは肺炎球菌ワクチンの反応に影響を与えることはわかっていないが、高用量のグルココルチコイド(PSL>20mg/d)は肺炎球菌ワクチンの免疫原性に悪影響を与える可能性がある
・TNF-α 遮断薬、アバタセプトまたはトシリズマブを受けている患者では、予防接種の前後に無治療期間を設ける必要はない
・メトトレキサート: ワクチン接種後 2 週間は MTX を避けることを検討する(Ann Rheum Dis. 2021 Oct;80(10):1255-1265.)

リウマチ性疾患の成人患者におけるワクチン接種に関するEULAR推奨の2019 年抜粋

・AIIRD患者におけるワクチン接種の状況とさらなるワクチン接種の適応については、リウマチ科チームによって毎年評価されるべき
・AIIRD患者へのワクチン接種は、できれば疾患活動が収まっている間に行う
・ワクチンは計画的に免疫抑制、特に B 細胞除去療法の前に投与することが好ましい
AIIRD 患者の大多数に対して、インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチン接種を強く検討する必要がある

日本の3学会合同委員会の推奨(日本呼吸器学会/日本感染症学会/日本ワクチン学会)

65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方第4版 2023年3月)
・免疫不全状態の基礎疾患のある患者はその重症度に応じてPCV13/PCV15-PPSV23による連続接種を検討することが望ましい。また、免疫不全状態のある患者はPCV13/PCV15-PPSV23による連続接種が推奨される。
・PPSV23未接種者について: PPSV23接種後5年以上の間隔でPPSV23の再接種、もしくは1年以上の間隔でPCV13/PCV15-PPSV23の連続接種をする.
PCV13/PCV15とPPSV23の接種間隔については、1年から4年が適切と考えられる
・PPSV23既接種者について: PPSV23接種後5年以上の間隔をおいてPPSV23の再接種、もしくはPPSV23接種後1年以上の間隔をおいてPCV13/PCV15の接種をする
・免疫不全状態のあるハイリスク者においては、その感染リスクを考慮してPCV13/PCV15接種後1年以内のPPSV23接種を検討することも考えられる

6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方2021年3月
・免疫抑制剤投与中の65歳以下の自己免疫性疾患患者に対してはPPSV23の接種が望ましい。また免疫抑制剤投与中の65歳以下の自己免疫性疾患患者に対してはPCV13-PPSV23の連続接種も選択肢として考えらえる

参考文献
RMD Open. 2017 Sep 14;3(2):e000484.
Ann Rheum Dis. 2020 Jan;79(1):39-52.
Ann Rheum Dis. 2021 Oct;80(10):1255-1265.

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