最近 、輸入麻疹例 を経験しました 。 以前にも私のブログに書きましたが過去に似た経験があり麻疹抗体検査を出しておいて良かったです。今回はさらに、病歴で東アフリカ滞在と蚊にさされた可能性もあるとのお話で診断検査計画が混乱したこと、結局修飾麻疹例だったことから典型的な症状や所見が揃っていなかった(結膜症状なし、皮疹は中毒疹様)ことから診療が難しかったことがあります。
症例
2 週間東アフリカの国に滞在、蚊にさされた可能性はある、日本にきて 5 日目(以下来日後の日数)から腹痛頭痛、高熱あり、自身判断でマラリア薬(詳細不明)計 3 回服用された、10 日目に発熱で救急受診、全身 CT 検査で異常みられず、上気道炎といわれて点滴して帰宅、帰宅後くらいから全身に皮疹でてきた、翌日 11 日目当院総診内科受診された。
血液塗抹検査ではマラリアを疑う所見なし顔面は広く紅斑あり、胸部から四肢にかけては点状の小紅斑散在。薬疹など中毒疹のようにもみえ、皮膚からは原因は判別しづらい。
保健所経由で、デング熱、ジカ熱、チクングニア検査は陰性、麻疹 IgG、IgM 値の上昇判明、市保健環境研究所の PCR 検査でも麻疹ウイルス遺伝子が検出され診断しました。
再度確認しますと、幼少期に麻疹ワクチンは 1 回うっていたらしい。最近麻疹既往歴なし、接触も思い当たるものなし。
●麻疹とは
麻疹は麻疹ウイルス(Paramyxovirus 科 Morbillivirus 属)によっておこる感染症で、人から人へ感染する。感染経路としては空気(飛沫核)感染のほか、飛沫や接触感染など様々な経路があります。感染力はきわめて強い。
38℃前後の発熱 上気道炎症状 結膜炎症状の「カタル期」、その後、体温は 1℃程度下がり、その後再び高熱(多くは 39℃以上)が出るとともに、発疹が出現する → コプリック斑について
「発疹期」 発疹は耳後部、頚部、前額部から出始め、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2 日後には四肢末端にまで及ぶ
発疹ははじめ鮮紅色扁平で、まもなく皮膚面より隆起、融合して不整形斑状(斑丘疹)となる。一部には健常皮膚が残る。次いで暗赤色となり、出現順序に従って退色する
●輸入例
日本は、2015 年に世界保健機関 (WHO)西太平洋地域事務局により麻疹排除国という認定を受けている
日本国内で循環している麻疹ウイルスは存在しないという意味で、それ以降の日本の麻疹症例は、輸入症例か輸入症例からの伝播による
東京都の年別報告数推移(過去 10 年)では、2014 年と 2019 年にまとまった数の報告がある
コロナ流行が落ち着きつつある現在、入出国の制限が緩和され麻疹の国内例が増える懸念がある
●修飾麻疹とは(Modified measles)
・麻疹に対する免疫は持っているけれども不十分な人が麻疹ウイルスに感染した場合
・幼少時に 1 回のみワクチンを接種している
・麻疹ワクチン接種後、長期間麻疹ウイルスへの暴露なしに経過したヒト
ワクチン接種歴のある人のワクチン失敗(すなわち麻疹の罹患成立)は、麻疹 IgG 結合力に応じて一次性として分類されるか (一次性ワクチン効果不全(PVF、結合力が低い)、または免疫力の低下に起因する二次性ワクチン効果不全 (SVF、ブレイクスルー例、結合力が高い) に分類される
2 回ワクチン接種を受けた少数の人々 (約 3%) がウイルスに曝露されて麻疹に感染する
2 回の予防接種歴があっても、修飾麻疹を発症する場合がある(環境感染学会ワクチンガイド)
ワクチンを 2 回接種していたにもかかわらず曝露により麻疹を発症した医療従事者の 2 例(IASR Vol. 40 p48: 2019 年 3 月号)
修飾麻疹の特徴
修飾麻疹の症状は典型麻疹症例と比較して軽症で、感染力も弱いことが報告されている
古典的な臨床症状(斑点丘疹性発疹、発熱、および次の 3 つのいずれか:咳、鼻風邪、結膜炎)に一致しない症例を分類
潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しないなど
症状がそろわなかったり、目立たないために麻疹と診断することが困難であり、蔓延を許す原因となる危険性もある
カタル期:通常の麻疹では 2 – 3 日目から Koplik 斑が出現するが、修飾麻疹ではしばしば Koplik 斑を欠く。また、修飾麻疹ではカタル期自体が欠けることも多い
発疹期:発疹も、体幹より末梢で強いことが多く、色素沈着を残さないこともしばしばある
潜伏期は 14~20 日に延長し、カタル期症状は軽度か欠落し、コプリック斑も出現しないことが多い。発疹は急速に出現するが、融合はしない。通常合併症はなく、経過も短いことから、風疹と誤診されることもある。
鑑別と診断、検査
風疹、EB ウイルス、エンテロウイルス属など他のウイルス感染症、マイコプラズマなどの非定型細菌感染症のほか、薬疹でもしばしば麻疹に類似した発疹を見る
修飾麻疹は臨床症状からの診断が困難であるため、診断のためには臨床検査を必要とする
感度・特異度ともに高いのは血清抗体価測定である。血清抗体価の測定法には数種あるが、EIA 法が感度が高く、信頼性が高い。
血清抗体価のうち、抗麻疹ウイルス IgG 抗体は過去の感染歴(またはワクチン接種歴)、IgM 抗体は現在の感染を示唆する。
抗体反応(IgM および IgG)に重点を置いた検査診断アルゴリズムでは、IgM 応答が変化し麻疹ウイルス量の少ない状況では症例の見誤る可能性がある
ワクチン 2 回接種歴ある麻疹患者のうち、IgM 検査結果が陽性だった症例の割合は 43.5%に低下していた(Viruses. 2021Oct 2;13(10):1982.)
これらのケースを確認する最良の方法は、適切なタイミングで検体を採取して、RT-PCR 分子診断(喉ぬぐい液/尿サンプル中の PCR)および血清学的診断(麻疹特異的 IgM)
IgM の信頼性が不足しているため、WHO は麻疹排除国で麻疹疑いのある患者を検査するためのアルゴリズムの最初としてPCR を実行することを提案している[World Health Organization Manual for the Laboratory-based Surveillance of Measles,
Rubella, and Congenital Rubella Syndrome 2018]。
まとめ
ワクチン接種者における麻疹感染例の検出は、世界的および地域的な撲滅の取り組みにとって課題となっている
以前にワクチン接種を受けた人の麻疹は、臨床的および検査室の特徴付けにおいていくつかの異なる特徴を示すため注意深く診察を行う
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