IgG4 関連疾患 (以下IgG4-RD)は膵臓、髄膜、大動脈、腎臓などの臓器病変で迅速に治療開始が必要な場合と、無症候性の顎下腺肥大など治療が延期される場合がありますが、まずは糖質コルチコイド(GC) 治療とされています(PSL0.5~0.6 mg/Kg/日で開始)。これに対する反応が良いのも IgG4-RD の特徴とされています(改善がなければ背景に悪性腫瘍などないか吟味)。その後GCを漸減していくわけですが、結構再燃も見られやすい疾患であり維持療法に苦労します。最近この疾患の治療についての報告が増え、IgG4-RD管理アルゴリズムも開発されてきています。
IgG4-RD再発
・IgG4-RD の再発は頻繁に発生し、さまざまなシリーズの患者の約 40 ~60% に発生
・ベースラインで血清 IgG4 レベル、IgE、および末梢血好酸球数の上昇があると、IgG4-RD フレアのハザード比はそれぞれ 6.2、8.2、および 7.9
高い総血清 IgG レベルは、より集中的な治療の必要性とより多くの再発と関連した(PLoS One 2017; 12: pp. 1-17.)
・顕著な高ガンマグロブリン血症、血清 IgG4 レベルの上昇、および低補体血症を呈した群は、高齢者発症で血清 IgG および IgG4 レベル低値、末梢血好酸球数が少ない群と比較して寛解維持のためのステロイド量、免疫抑制剤使用率、および再発率がより高い (Immunol Med. 2018 Mar;41(1):30-33.)
・このような再発の危険因子が発症時に存在する場合には、寛解導入後も維持療法を継続する
寛解の維持として低用量GCまたは他の免疫抑制剤を併用する
・再発を繰り返すと、関係臓器にさらなる損傷が生じる可能性があり、またGC累積量が多いと重篤な有害事象と相関してくる。したがって、IgG4-RDのGC漸減・寛解を維持するために効果的な免疫抑制剤を見つけることが重要
IgG4 レスポンダー インデックス (RI)
バーミンガム血管炎活動スコアに基づいて作成されたIgG4-RDのための活動スコア (Arthritis Care Res (Hoboken) 2018; 70: pp. 1671-1678.)
現在利用可能な唯一のアクティビティ スコア
このツールは治療に対する反応をみるために使用でき、また再発を予測できる
疾患25 のドメイン(24の臓器/部位と1の体質的症状)のアクティビティとダメージを評価、0~4のスケールでスコア化して合計
・24 の標準的な臓器/部位 (下記) +体質的症状(体重減少、発熱、疲労)
:髄膜炎、脳下垂体、眼窩病変、涙腺、耳下腺、顎下腺、その他の唾液腺、乳様突起炎・中耳疾患、鼻腔病変、副鼻腔炎、その他の耳鼻咽喉科病変、甲状腺、肺、リンパ節、大動脈・大型血管、心臓/心膜、後腹膜線維症、硬化性縦隔炎、硬化性腸間膜炎、膵臓、肝臓、胆管、腎臓、皮膚
・臓器/部位の疾患活動性 0 ~4 のスケールでスコア付け
4 最も重篤な疾患活動性 (「治療にもかかわらず病変の悪化または新たな病変」)
3 治療を受けていない間の新規または再発
2 持続している/前回の来院時から変化していない疾患活動性
1 改善したが依然として持続している疾患活動性
0 疾患活動性なし (無症状症候、または治癒)
・このインデックスの検証で(Arthritis Care Res (Hoboken). 2018 Nov;70(11):1671-1678.)
医師の総合評価 (PhGA) スコアとの相関関係は良好で疾患変化にも鋭敏だった。治療後、RI スコアに有意な改善が見られた。このRI が有効で信頼できるものであることがわかった。
・治療開始前のRDレスポンダーインデックス>9は、再発と有意に関連していた(HR = 3.68、95% CI: 1.1、12.6)(P = 0.04) (PLoS One. 2017 Sep 15;12(9):e0183844.)
GCと他薬との併用療法
GCと免疫抑制剤 (IM)、およびリツキシマブ (RTX) の単独または併用の有効性評価、体系的レビューとネットワークメタ分析(Rheumatology (Oxford). 2020 Apr 1;59(4):718-726.)でGC+ IMはGC単独と比較して再発率が低い (OR = 0.39)、GC、IM単剤療法または RTX 導入療法のみよりも寛解率が高かった。有害事象の発生率は、異なる治療群間で同等。
ミコフェノール酸モフェチル (MMF)
・GC単独とGC+MMF療法の有効性と安全性を比較:ランダム化臨床試験(Rheumatology (Oxford). 2019 Jan 1;58(1):52-60.) MMF療法は(1 ~ 1.5 g/日)
GC+MMF併用療法は単独療法よりも効果的で、IgG4-RD再発は血清IgG4レベルの上昇とGC維持用量の低量に関連している可能性がある
・GCとレフルノミド (LEF) またはミコフェノール酸モフェチル (MMF) との併用療法の有効性と安全性の比較:後ろ向きコホート研究(Clin Rheumatol. 2023 Jul;42(7):1839-1846.)では
GC +低用量 MMF(750 ~1000 mg/日) の併用療法群のほうが、6か月、12か月目の総奏効率はより高く、疾患寛解期間はより長い、LEF群(20 mg/日)でより副作用が多かった。
レフルノミド
・レフルノミド + 低用量 GC と低用量 GC を比較し小規模 RCT で1 年後の臨床再発の有意な減少あり (Medizinhist J 2017; 47: pp. 680-689.)
・GC+ LEF(10 ~20mg/日) の併用療法が、平均追跡期間12か月で寛解を効果的に維持できることを示した、GCの平均用量は6.9 mg/日まで減少した (Intern Med J. 2017 Jun;47(6):680-689.)
リツキシマブ (RTX)
・RTX単群非盲検臨床試験(Ann Rheum Dis 2015; 74: pp. 1171-1177.) RTX の1 コースで12か月後で、参加者の 77% が主要評価項目達成、再発を経験したのは 23%
・オマールのメタ分析で維持RTX治療が他のすべての治療(GC、GC+ DMARD、RTX導入)と比較して再発率が最も低い(OR 0.1)(Rheumatol (United Kingdom) 2020; 59: pp. 718-726.)
・RTXリツキシマブ:前向き非盲検試験(Ann Rheum Dis. 2015 Jun;74(6):1171-7.) RTX 2回(各 1000 mg) で治療(RTX単独または2か月以内のGC中止とする)、結果は、40%は12か月時点でも完全寛解のまま。
・RTXバイオシミラー: 観察前向き非盲検コホート研究(Eur J Intern Med. 2021 Feb;84:63-67.)、6 か月後60% が寛解を達成、36%が18か月以内に再発
・RTX維持療法の長期有効性の研究(Eur J Intern Med 2020; 74: pp. 92-98.)、計画維持治療としてRTX(500mg ~1 g)を6 か月ごと は、疾患再発時にのみRTX再治療群と比較して18 か月後の自由再発率は有意に少なかった(29%vs100%)
・計画的(つまり、再発が起こる前)RTX再治療による維持療法は、より長い無再発生存期間と関連していた(41ヶ月対21ヶ月; P = 0.02) (PLoS One. 2017 Sep 15;12(9):e0183844.)
その他
アザチオプリン (AZA)、シクロホスファミド、イグラチモド、メトトレキサート (MTX) など
小規模な観察研究または遡及研究がいくつかある
・イグラチモドとGCの併用は、軽症IgG4-RDの治療に効果的 (Int J Rheum Dis. 2019 Aug;22(8):1479-1488.)
・イグラチモドはGC治療で再発または難治性の IgG4-RD 患者に有効(Clin Rheumatol. 2020 Feb;39(2):491-497.)
・GCに禁忌のあるIgG4-RD症例に対するアザチオプリン単剤療法の効果(J Clin Rheumatol. 2021 Dec 1;27(8S):S327-S330.)
・器質化肺炎を伴うIgG4-RD肺疾患はアザチオプリンで効果的に治療 (Intern Med. 2014;53(23):2701-4.)
維持療法
導入療法と同時に維持療法を開始し、少なくとも2年間維持する
まとめ
IgG4-RD 導入療法の最初の治療法は、中等量のGC単独または他の免疫抑制剤との併用で、病変の臓器や再発予測因子の存在に応じて調整する
治療開始前と毎回の来院時に、IgG4-RD レスポンダー インデックス スコアを計算する
再発危険因子としては、血清IgG4値高値、多臓器/全身性病変(2か所以上)、IgG4レスポンダーインデックス>9、血清IgE値上昇、末梢好酸球数増加、血清総IgG値の上昇、など
このような再発の危険因子が発症時に存在する場合には、寛解導入後も維持療法を継続する
維持療法は、GC (≤ 7.5 mg/日) ± GC温存薬(免疫抑制剤)
併用薬としては、RTXやMMF、レフルノミドの効果を報告したものが多い (注:いずれも本邦では保険適応外)
IgG-RD 患者の追跡の推奨時期は不明だが、専門家の多くが生涯にわたる監視としている
参考資料
Autoimmun Rev. 2023 Mar;22(3):103273.
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