6299777190465681 診断における一般化と個別化 | 感染症・リウマチ内科のメモ

診断における一般化と個別化

日記

医師の日々診断において、大事にされみんなが使うような法則といったものがある。英語の医学教科書などでは pearl などのいいかたもあります。身体所見や検査、診断などであるものが○であれば×であろうといえる等。これはこれでとても大切なものです。でも容易に多用されやすい(条件反射で、深く考えないで判断していると悪口をいう指導医もいる)。実際に8割程度でも正解を導けばかなり優秀でしょうが100%なんてものはない。絶対例外があるし言い切れない。

感染症初期診療では、問診、診察、簡単な検査から導かれる暫定的な感染部位診断、想定される起炎菌リスト、そしてempiricな抗菌薬の選択、の流れであり、それぞれの患者さんをとりあえずルールに当てはめて診断推定をしている。また手指関節痛などのある外来患者さんもとりあえず、種々ある関節リウマチ分類基準にあてはめてとりあえず診断し、治療を選択したりする。
でもこれらの推定はあくまで暫定であり分類してみただけなので、正確な最終診断をしたわけではないとわきまえることが重要な点であり、意外と医師が陥りやすいポットフォールトなる。(診断基準を満たしたから確定したといったり、検査陰性だから否定的といったりする)

感染症では、血液培養で意外な菌が生えて診断感染部位がこれまた意外な場所と分かることもあるし、リウマチでも最初はリウマチのように思っていたが数ヶ月経つと全然違う疾患だったということもたまにある(このあたりを調べて報告した論文もある)。このような”たまに”、はおそらく1-2割もない。これらの経験をもって、最初の一般化法則、例えば”各種ガイドラインをつかう”、”CRP上昇なら感染症である、抗菌薬を使う”、などはやはり優秀で大部分の場合いける と考えるか、やっぱり一部の患者では違うことがあるから些細な相違点を見逃さないようにしないと、と考えるかは 各医師の個性によるだろう。

総合診療医と呼ばれる一群の医師がいる。私もこの科をする前は10年以上これをやってきたが、診療の最初で一般化された法則では暫定的な診断もつかない患者の紹介を受けやすい。なので大変診断に悩むし、些細な問診や診察上の手がかりを探し、鑑別疾患リストも常に新たに調べて用意して、特殊な診断検査を計画するなどしてきた。
こうして頻度のすくない珍しい疾患を診断する機会もでてくるが、こういった疾患はそもそもガイドラインなどはないので治療やフォローも含めて文献的学習でいくしかない。 でもこういった希少疾患も経験数を積むことで、より鑑別診断力が増していくと思われる。

医師に求められるのは、”各ガイドライン、診断基準やpearlといった一般法則を知っていて利用すること”と、”そこから外れる希少疾患や状態もリストアップできて常に気にかける配慮”、である。 患者個々で集まる所見から組み立てて一般化することと、個々の所見の特異性に注目して別の意味を探ることである。 医学生や初期研修医をみていると、一般化法則を早々に身に付けて”あっさりした”診断治療をするだけで、考察に深みのない診療をしているものと、常に問題意識を持って、法則から外れていないか、些細な所見はどんな意味か調べているもの、にだんだん分かれてくるように思う。

ガイドラインやCRPなどを診断に使うのは反対ではないが、それのみではやはり浅い思考であって、患者個々をみていることにはならないと思う。丁寧な診察で特殊な皮疹を探し出したり、グラム染色評価を加えてみたり、いろいろ患者個別の所見を得るための工夫はある。
一医師のみではこのような理想の診療を全分野にできるはずもないので、一般化法則を常に会得することと活用すること、さらに個々の患者がそれから外れていないかを検討する姿勢と、適宜周囲の分かる医師に相談する姿勢の両方が求められる。

内科医、とくにジェネラリストの理想とはこういったものと思っているが、なかなか会得できないし、後進に伝えにくい所でもある。

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